taboo 7

 部屋の密度が増す。それは重苦しく二人に圧し掛かる。息苦しく酸素を求めるゾロの唇をサンジは塞いだ。
 何度押し殺しても漏れる息は、体と同様既に自分のものではなく、支配しているのは相手から与えられる快楽のみだ。
 腰をしっかりと押さえられ、音を立てて体の中心を口に含まれる。足が震え、そのはっきりとした刺激にゾロは体を捩った。
「声…、出してもいいんだぜ。誰も聞いちゃいない…」
「っ…い、やだ」
 溜息と同時に出した声は震えている。
 サンジは顔を歪ませて笑い、ゾロの胸に赤い痕跡を残した。
 力強く抱きしめるも、出来てしまう体の隙間がもどかしい。相手の肉も骨も体の一部に埋め込んでしまいたいと強く願う。永遠に叶えられない願いは、それ故に一層孤独を感じる。
 ゾロの上を這いまわり、全てを暴く手はどこかひやりとしていて、体の熱を拭い去るようだがまた新たな熱が与えられる。
 ゾロは相手の首に腕を回し、肩に顎を乗せた。そこがあつらえられたように、ぴたりと収まるのを不思議に思いながら、この場所は自分のために作られたのではないかと錯覚する。
 ただそこにある熱だけが現実だ。体も忙しなく吐き出される息も。
 既に立ち上がっているそこをやんわりと握られる。
「…っ、はぁ…」
 抑えていた声がたまらず歯の隙間から漏れた。それは自分でも経験のある動きでありながら明らかに違うものだ。時として自分でするよりももどかしく、より快感が増す。
 ゾロは相手の名前を呼ぶが、それは形を成しておらず熱い息が吐き出されるばかりだ。目を閉じた暗闇の中でただ快楽のみを追う。解放されることを望み、掌の支配から逃れるために。息を吐くことを忘れ、酸素を求めるような早い呼吸。昇りつめる。そしてイッた。四肢はぐにゃりとして力が入らない。大きく肺に空気を入れ、そしてゆっくりと出した。指先や足の先まで血が勢いよく循環しているのが分かる。
「…お前がイク時ってさ、肉桂(シナモン)の匂いが強くなるのな」
 手でゾロの吐き出したものを受けたサンジはそれを舐めながら言った。ゾロはそれを焦点の合わない目で見る。
「舐めんなよ、そんなもん…」
 未だ震えるゾロの睫毛にくちづけしながらサンジは彼の足を持ち上げた。体を割って無理やり入ってくるそれは熱い塊で、体が引き裂かれる痛みにゾロはこらえられず声をあげた。喉から搾り出される。胸の奥を握りつぶされるような声。
「ゾロ…」
 柔らかく情欲の滲んだ声で名前を呼ばれた。知らず目尻から伝う雫を舌で拭われる。ゾロは何度も瞬きをして、目の前の男に焦点を合わせた。その顔は切なげだ。あまりにもひたむきに一つのものを求めている。
 舌をからませ、噛み付くようなキスをする。体だけでなく、喉の奥まで暴こうとする。その奥に何があるのか探ろうとする。
 ぎっちりと埋め込まれたものを動かそうとせず、サンジはただゾロを抱きしめていた。湿り気を帯びた手がゾロの頬を柔らかく動く。額に、耳に、目尻に、鼻に、顔のあちこちに唇を落とす。
「苦しいか…?」
「あ、たりまえ…だろ…」
 切れ切れに答えた。サンジは少し困った顔をした。
 暫くすると異物に慣れたのか、上下するゾロの胸の動きが穏やかなものに変わってきた。それを感じたサンジは動き始めた。
「…ん、…あぁ…」
 今までとは違う、痛みだけではない快感にゾロは甘い溜息を吐く。相手の動きに合わせて吐く息はより深いものになっていく。無様な格好でもつれ合っている二人は、だがあまりにも無防備でいたいけな存在だ。ただ目の前にある快楽に手を伸ばし、そこには何の感情も介在していない。より相手の熱を求めているだけの存在。
 目を伏せ睫毛を震わせて無心に腰を振る男を眺め、ゾロは何故か愛しいと思い抱きしめた。迷子の子供が必死にしがみついてくるような、いたいけな愛しさ。
 男は色あせた金の髪を額に張り付かせ、いっそう激しく腰を打ちつける。苦しみが快楽を、快楽が苦しみを煽る。それから逃れたいために、ただどこかに到達したいがために彼らは切実だった。そうして二人は果てた。

 シーツの隙間には先程の熱がまだ残っているようだ。部屋を支配していた重苦しい空気はどこかへ消え、既に乾いたものへと変わっている。
「残り香(ラストノート)だな…。肉桂よりも今は白檀(サンダルウッド)のほうが強い。あとは…、わずかに麝香猫(シベット)」
 背後からゾロの体を抱きしめ、首筋に顔を埋めている。
「そうか…? 俺には分からねえな」
「自分の体臭は感じないだろ、普通。お前の匂いはもともと薄いしな。これくらいの匂いじゃあ、普通の人は感じねえよ」
「犬みてえだな」
 そういってゾロは笑った。そう、犬なんだ。ご主人様はお前だ。サンジがそう言うと、ゾロは更に笑った。
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