2006/10/1 (2)

日曜日の森は家族連れで賑っている印象。車でやって来てジョギングをはじめるような人も多数見受けられる。そんな中、歩いている日本人は私たちぐらいだった。競馬場に近づくにつれて同じ目的で歩いている日本人はちらほらいたが、同じ駅から歩いてきた人は、いたとしてもごく僅かなはず。
森の中は静かというほどでもなく、大きな道沿いに歩いていると「これ、森?」と思う。でも空気が気持いいし、明るくていいお天気で、これからロンシャン競馬場に向かうのだと思うだけで楽しい気分。

15分くらい歩いた所で、左手前方に湖が見えてきた。アンフェリウールという湖。風が強めで、日が陰るとちょっとひんやりするけれど、綺麗な景色だ。人も大勢いる。
湖のほとりには等間隔でベンチが並んでいたので、休憩がてら、鳩子さんがここで朝ご飯を食べることに。ベンチに座ってひと息つきつつ、じゃあここらで写真を…とバッグをさぐってみたけど、なんか、手に、あれ?触らない…ものすごく嫌な予感…。

昨日。ホテルに戻った後、電池が切れかけていたので、私はカメラの充電をしていた。以前そうやっていて電池をカメラに入れないまま競馬にでかけてしまったという苦い記憶があったので(呆れますね…)、「そうそうこれを忘れたら大変」とカメラに電池をしまったまでは確実に記憶にあったのだが、そのあとカバンに入れたと思ったのに…どうやら、入って、いない。
何のために田舎の両親が旅行に使おうとしていたカメラを無理やり奪って送らせたのか…(鬼)。すべてロンシャン競馬場を撮影するためだったというのに!自分の愚かさに嫌気が差したが、すぐ気を取り直して、策を講じることにする。といってもこの場合、ひとつしかない。
「ちょっとホテルに戻って、カメラ取ってくる」
時計を見ると11時。1時間、では難しいかもしれないけど1時間半あればなんとか戻ってこられるはず。二人には足止めさせて申し訳ないけれども、今日ばかりはカメラ無しってのはちょっとありえない。
12時半にこの場所で、と二人に告げて、私は一人で来た道を戻る羽目に。つくづく、ダメだ。基本的にはた迷惑。

今になって考えてみたらまるっきりひとりで行動したのはこの時だけなのだった。
来た道を戻り、再び地下鉄駅にやって来た。地下鉄は実はちょっと緊張する。どこの情報を拾ってもスリが多いと書かれているし。窓側の席に腰を落ち着けるとカバンを壁側にくっつける。そうやってまわりを気にしてみていると、前に座っていたカップルのコソコソ話だって変な風に気にかかって、妄想で勝手にアテレコを始めるしまつ。
「なあなあこの日本人ぼうっとしててちょっといいカモじゃねえ?」
「馬鹿なこと言わないで」
「絶対うまくいくと思うけど」
「やめときなさいって」
(ありがとうお嬢さん、彼を止めてくれて)←わたし。
だってホントにそんな感じだったのだ。
べつに私もビクビクしてたわけじゃないけど、なんかいいながらこちらを見ていたのもお嬢さんが彼を窘めている風に見えたのも事実。

などとくらだない妄想を繰り広げているうちにAnvers駅に着いた。さすが日曜らしく、サクレクール寺院に向かうらしい観光客の数がすごいことになっていた。出発した頃はそれほどでもなかったのに、やはりお昼時だからか。
駅を出てまっすぐホテルに向かう。早足で歩けば5分もかからない。
着いたらすぐに部屋へ。階段口から見ると、私達の部屋の手前にはふたつドアがあって、一番手前の部屋ではお部屋係の女性がお掃除中だ。
部屋に入る。すでに掃除は済んでいて、ぱっと見渡した瞬間にベッドの枕のしたあたりに転がされているカメラを発見。バッグに入れたつもりが扱いが荒いせいでこぼれて床に落ちていたらしい…と見た瞬間に理解する。ということはさっきのお掃除の女性が拾ってくれたんだろうか。良い人でよかった。

目的は果たしたので急いで部屋を出ると、先ほどの女性が私の顔を見て何か話しかけてきた。フランス語なのでさっぱりわからないが、「サヴァ?」というのだけなんかわかったので同じように返しておいた。一応ありがとうございますの気持ちを込めつつ…。私がどの部屋の人間かわかったのだったら、もしかしたらチップのお礼だったのかも?と思う。デスクの上に2ユーロ置いて、珍子馬さんが毎日、私達二人の顔のイラストとmercy!の文字を書いていたので。でもなんとなくカメラあった?と聞かれたのかなあと思った。が、結局のところはさっぱりわからないのだった。すみません。

来た道を戻る。12時少し前で、だいたい読みどおり。やっぱり1時間じゃムリだったなあと思いながら、地下鉄に乗り込む。結果として、このときの時間のロスがのちに少々響くのだが。
電車を下りて、階段を登って、道を渡って、渡って、一度通った道を再びてくてく歩く。12時20分くらいに到着。出た時と同じベンチに二人は座っていた。私がいない間にちょこちょこと森の中を散策していたらしい。ちょっと羨ましい。

ようやくロンシャン競馬場へ出発。レースが始まるのは1時とか1時半とか、それくらいだと思うので、気分的にはわりと余裕。
道路ぞいに歩いていると、左手を自動車が列をなして走っている。ワゴンタイプの車に乗った正装の人々がグラスを合わせていたりしてなにやら華やかでハイクラスっぽい雰囲気が漂ってくる。お帽子とかドレスとかスーツとかがいちいちキラキラしていて、凱旋門賞はやっぱりお祭りなんだわ~と思う。

出発前、何かにつけて「あちらでは競馬場は社交場です。正装(盛装?)で行きましょう」みたいな注意書きを、あちらこちらで(著名人のコラムからそこら辺の掲示板まで)見かけたのだが、実際のところを経験して知ったうえでそういう指摘をしている人ってどれくらいいるもんなのかしら、とちょっと皮肉っぽく見ていたりもした(性格悪い)。もちろんそういう側面は多分にあるのだが、まったく社交に関係ない人間が場違いにめかしこんでるのも恥ずかしいんじゃないだろうか、と思えたので、自分の服装に関しては、ヘンに気合を入れない程度でそこそこ小奇麗に、というのを心がけた。端的にいうと、ジーンズと長袖Tシャツとかそういうのはやめとこう、といった程度。正解だったと思っている。

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