アクアマリン 4
「で?」
ナミの冷たい視線にサンジは後ろめたい気持ちを露わにして、目を逸らしながら卑屈に笑う。
「だから、日曜、は、で、出られない」
「ああー、そう、もう予約もしたのに。簡単に断るわけね」
日曜日は、熱を出すことに決めた。おかしく思われても気にしない。ゾロがサンジと過ごすために休むのに、サンジが休めないなんて、話にならない。
「休むのは勝手にしなさいよ。でも、飲み会には出てもらうわ」
「ムリだよ…。熱出して休んで、飲み会だけ出るなんて」
「だから、それくらいの覚悟で休みなさい、って事よ!」
「うう」
サンジとナミのやりとりを、ゾロはどこ吹く風で聞いていた。傍らにあった雑誌を手にとってぱらぱらと捲りながら、
「そのアホはやることしか考えてねえんだ。別に休まなくったっていいのによ」
などと、興味のなさそうな顔であっさりとそんな事を口にする。
「…ば…っ!お前、ナミさんの前で何を」
「あんた達、ここをどこだと思ってんの!」
ナミの部屋だ。
翌日の火曜日。バイトが終わって、三人で例の居酒屋に寄った。そして、ナミを送りがてら、二人してナミの部屋に上がり込んで、今のような状況である。
「今更だろ。エロコック」
「うるせえ!てめえこそ俺に突っ込まれてよがって泣くくせして、何言ってやがる!」
「ああ?!」
ゾロは顔を真っ赤にして立ちあがる。自分からふっかけておいて、この有様だ。ナミは盛大に溜息をついた。
(こいつらは私がまだ十代のごく常識的な若い女だって事、忘れてるに違いないわ)
現に、見ていれば言い争っていたはずの二人はお互い俯いて、何やら気持ちが盛り上がっている様だ。
「ここでサカるの、やめてよね」
低いトーンで押さえる様に呟くと、サンジが顔を真っ赤にして、
「くそ…てめえのせいだ」
とゾロを睨め付けた
ゾロはソファに座ったまま、じっとしているナミを見て、ちょいちょいと手招きする。ナミは目を瞬いて立ち上がりソファに近づくと、ゾロが手を取って、ぐいと引き寄せられた。
「きゃ」
倒れ込んだナミを左腕で抱きとめて、ゾロはナミの髪に鼻先を埋めた。
「悪ィな。どうせ、俺はこんなもんだ」
「てめ!なんちゅうウラヤマシイ事を!ナミさん、俺も!」
サンジはゾロの膝に腰を下ろして、くすくすと笑いながらナミの頬に口づける。
「やめなさいよこのホモ!あんた達にまざる気は無いわ」
言いながら、ナミは嬉しそうに頬を染めて笑った。
そして、サンジの誕生日翌日である日曜日。宣言どおり(ナミとゾロ以外には宣言などしてはいないが)、サンジはバイトを休んだ。ウソップには誕生日会には出るからと連絡して、ふたりで夕方にはサンジのアパートを出た。ゾロは寸前まで行きたくないとごねたが、サンジに説き伏せられてしぶしぶついて来た。
「ナミに散々からかわれるぜ」
「いいよ、もう。ナミさんになら何言われても」
サンジが笑うので、ゾロも仕方が無いと溜息をつく。
日はずいぶん長くなって、二人の足元を夕暮れの青が覆う。サンジは隣のゾロの顔をちらりと見た。
伏し目がちに穏やかな表情を浮かべているこの男は、鋼のような魂を持ちながら、それでいて朴訥なやさしさと、海のような深さをあわせ持っていて、そして、自分を好きなのだ。
「なんだよ?気持ち悪い顔しやがって」
相当、やに下がっているらしい。サンジもわかっている。
「んんー、昨夜のおめえを思い出していたところ。へへ。いて!」
隣から平手が後頭部を打った。見れば顔を真っ赤に染めていて、そんな顔をするから、サンジはますますゾロを愛しく思う。とても好きだ。
「なあ」
「なんだ」
「たまには言えよ、そっちから」
いつかな、と、心の中で答えながら、ゾロは顔をあげて、前を見る。街に降りかかる薄闇に、心は不思議なほど凪いでいた。
ナミの冷たい視線にサンジは後ろめたい気持ちを露わにして、目を逸らしながら卑屈に笑う。
「だから、日曜、は、で、出られない」
「ああー、そう、もう予約もしたのに。簡単に断るわけね」
日曜日は、熱を出すことに決めた。おかしく思われても気にしない。ゾロがサンジと過ごすために休むのに、サンジが休めないなんて、話にならない。
「休むのは勝手にしなさいよ。でも、飲み会には出てもらうわ」
「ムリだよ…。熱出して休んで、飲み会だけ出るなんて」
「だから、それくらいの覚悟で休みなさい、って事よ!」
「うう」
サンジとナミのやりとりを、ゾロはどこ吹く風で聞いていた。傍らにあった雑誌を手にとってぱらぱらと捲りながら、
「そのアホはやることしか考えてねえんだ。別に休まなくったっていいのによ」
などと、興味のなさそうな顔であっさりとそんな事を口にする。
「…ば…っ!お前、ナミさんの前で何を」
「あんた達、ここをどこだと思ってんの!」
ナミの部屋だ。
翌日の火曜日。バイトが終わって、三人で例の居酒屋に寄った。そして、ナミを送りがてら、二人してナミの部屋に上がり込んで、今のような状況である。
「今更だろ。エロコック」
「うるせえ!てめえこそ俺に突っ込まれてよがって泣くくせして、何言ってやがる!」
「ああ?!」
ゾロは顔を真っ赤にして立ちあがる。自分からふっかけておいて、この有様だ。ナミは盛大に溜息をついた。
(こいつらは私がまだ十代のごく常識的な若い女だって事、忘れてるに違いないわ)
現に、見ていれば言い争っていたはずの二人はお互い俯いて、何やら気持ちが盛り上がっている様だ。
「ここでサカるの、やめてよね」
低いトーンで押さえる様に呟くと、サンジが顔を真っ赤にして、
「くそ…てめえのせいだ」
とゾロを睨め付けた
ゾロはソファに座ったまま、じっとしているナミを見て、ちょいちょいと手招きする。ナミは目を瞬いて立ち上がりソファに近づくと、ゾロが手を取って、ぐいと引き寄せられた。
「きゃ」
倒れ込んだナミを左腕で抱きとめて、ゾロはナミの髪に鼻先を埋めた。
「悪ィな。どうせ、俺はこんなもんだ」
「てめ!なんちゅうウラヤマシイ事を!ナミさん、俺も!」
サンジはゾロの膝に腰を下ろして、くすくすと笑いながらナミの頬に口づける。
「やめなさいよこのホモ!あんた達にまざる気は無いわ」
言いながら、ナミは嬉しそうに頬を染めて笑った。
そして、サンジの誕生日翌日である日曜日。宣言どおり(ナミとゾロ以外には宣言などしてはいないが)、サンジはバイトを休んだ。ウソップには誕生日会には出るからと連絡して、ふたりで夕方にはサンジのアパートを出た。ゾロは寸前まで行きたくないとごねたが、サンジに説き伏せられてしぶしぶついて来た。
「ナミに散々からかわれるぜ」
「いいよ、もう。ナミさんになら何言われても」
サンジが笑うので、ゾロも仕方が無いと溜息をつく。
日はずいぶん長くなって、二人の足元を夕暮れの青が覆う。サンジは隣のゾロの顔をちらりと見た。
伏し目がちに穏やかな表情を浮かべているこの男は、鋼のような魂を持ちながら、それでいて朴訥なやさしさと、海のような深さをあわせ持っていて、そして、自分を好きなのだ。
「なんだよ?気持ち悪い顔しやがって」
相当、やに下がっているらしい。サンジもわかっている。
「んんー、昨夜のおめえを思い出していたところ。へへ。いて!」
隣から平手が後頭部を打った。見れば顔を真っ赤に染めていて、そんな顔をするから、サンジはますますゾロを愛しく思う。とても好きだ。
「なあ」
「なんだ」
「たまには言えよ、そっちから」
いつかな、と、心の中で答えながら、ゾロは顔をあげて、前を見る。街に降りかかる薄闇に、心は不思議なほど凪いでいた。
2002.3.17発行(文庫版/2004.5.2)
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