17.子猫

 友達の家に生まれたのだと目の前に持ってこられて、どう答えたものかと思案する。
「俺が、いいよとか、言うって」
「お前の家だろ」
「……許可?」
 ゾロはこっくりと頷く。平穏な目をしている。
 茶色のトラだった。
「だめ」
 そう言うと、ゾロはわずかに目を開き、ついで、ぎゅっと眉間の皺を深くした。
「わかった」
 そしてくるりと背を向ける。前方は玄関。くたびれきったスニーカーに足をねじ込みながら、ドアノブに手をかける。
「だっておめえ、昼間、誰もいねえ、し、」
 ドアノブががちゃりと音をたて、薄く開いた隙間から白い光が入り込む。
「そんなちっちぇえの、飼いかたなんかわかんねえよ。面倒見れねえだろ?」
 ゾロの背中にむけて言う。ゾロはまだ、出て行こうとしている。ドアが完全に開いて、外の景色が白に弾けた。
 行かせたらそのままずっと遠くまで行ってしまって、戻ってこないような気がするのは何故なんだろう。そういう背中だ。手を離したら最後という気にさせる。なぜだか不安になる。
「行くなよ」
「……行かねえよ」
「猫、飼うか?」
「いや、無理だろ」
 ゾロが斜めに、少しだけ振り返る。サンジは目を丸くした。
「飼いたいんじゃねえの?」
「そういうわけでもねえ」
「でも、行くとこねえなら」
「元の飼い主が飼うつもりでいたやつだ」
 な、と子猫の顔を見て言う。
「意味がわかんねえよ、お前」
「わからねえならいい」
 そう言うと、ゾロは出て行った。慌てて追うと、下の道路に車がとまっていて、見知った女性が車体に体を預けていた。
「ナミさん?」
「なあにー、いらなかったの?」
 ナミはサンジを見上げて声を張った。
 運転席には知らない女性がいる。そちらが飼い主だろうか。肩より長い水色の髪がウインドウ越しに光って見える。
「いらねえって」
 階段を下りてナミの前まで行った、ゾロが、そう言って子猫を手渡した。
「あら、残念ね」
「いや、わかってたけどな」
 片頬をくっとあげて笑って言い、ゾロは振り返って階上のサンジを見上げた。
「好きそうなのに、彼」
「好きだけどな、その前にこまけえ事考えちまうんだ。だらしねえ」
「責任感でしょ」
「さあ?」
「まあでも」
 子猫を胸に抱き、ナミは助手席のドアに手をかける。
「見せてあげられてよかったわね」
 そう言って、にやりと笑うと、ゾロの額をぽん、と叩いた。
「プレゼント」
「は、なんだそりゃ」
「わかんないのねえ」
「ナミさーん、寄ってかないのお?」
 階上にむけて右手を一度ひらめかせると、ナミは助手席にすべりこんだ。
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