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 風呂に入っていたらいきなりドアが開いた。
「オレも入る」
「寝るんじゃなかったのか?」
「目ェ覚めた」
 くわあ、とひとつあくびをすると、巻ちゃんは壁のタイルに片手をついて、コックを捻る。シャワーの熱いお湯を頭からかぶりながら、あー、と低く唸った。まだ眠そうだ。
 オレはバスタブの縁に背中を預け、俯いて後頭部に湯を受ける細い背中を眺める。
 緑の髪を張りつかせてしなる首と、肩甲骨の柔らかな影。真ん中を通る骨、腰のくぼみ。
 あそこに親指をひっかけて、腰骨をてのひらで包みこんで、そのまま前に滑らせたい。隙間に手を入れて、撫でて、開かせて、逃げ出そうとする腰を抱き込んで後ろから……
 骨の感覚までリアルに再現させつつ、流れるように浮かぶ映像を脳裏に再生していたら、目の前でゆらりと影が動いた。
「おい」
 ハッとして、瞬いて見上げると、巻ちゃんがバスタブを跨ごうとしている。
「ああ、入るか?」
 オレはいそいそと前を開けた。座りやすいように両足を立てて開き、ついでに両腕も開く。巻ちゃんはそろりと片脚を入れてお湯の中に腰を落とすと、当たり前みたいな顔をしてくるんと後ろをむいて、寄りかかってきた。緑と青の中間のような色合いのお湯がふわりとふくらむ。パッケージに森の香りと書かれていた入浴剤は、棚の中から適当に選んだものだ。巻ちゃんの髪の色と相まって、視界が一気に緑になる。
「結ばんのか」
「ゴムがねえ」
 後ろでまとめて、片側に流してやった。そして、のぞいたうなじに鼻先を押しあてて息を吸う。
 前に腕を回して引き寄せても巻ちゃんは逆らわない。丸めた肩にキスをする。あたたかいからだと、透明なお湯の味。巻ちゃんがクハ、と笑う。オレの肩に頭を預けて、とろんとしている。
「触るよ」
「もう触ってるショ」
 笑いまじりに応える声に吐く息が混ざる。斜めに振り返る視線が、誘い込むように揺らいでる。
「触られに来たんだろ」
「あ」
 腰が揺れるのに合わせて、お湯がふわんと動く。
 そうだよだからもっと触って。
 声よりも視線よりもずっとわかりやすく伝える体が、腕の中で震えている。
ユウシさん(nottoc.)様に誕生日にこんなかわいい東巻絵をいただいたので、ユウシさんのお誕生日に、このイラストで書いた小話をお返しさせていただいたのでした。(14/6/11)
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